暗い路地裏に、私たちは息を殺して潜んでいた。 リコの肩越しに、私は追っ手の影を睨みつけた。 その瞬間──私の心臓は、まるで爆発するような音を立てていた。
すべての始まりは、一週間前だった。
■ 第一章:依頼
「ルミ、ちょっと来て」 リコが神妙な顔で声をかけてきたのは、都内のカフェ。 いつもなら冗談交じりに話す彼女が、あのときは明らかに何かを隠していた。
「この案件、断ってもいいんだけど──あんたとじゃないと受けたくない」
クライアントの名は伏せられていた。 内容は、「あるマンションの一室から、デジタルデータを回収してほしい」というもの。 金額は破格、だが危険の匂いも濃かった。
私は迷った。けれど、リコがそこまで言うなら……。 「やろう」
その夜、私たちは契約の詳細を詰め、身分証を偽装し、念入りに下調べを行った。 Googleマップから実地調査まで、隣人の行動パターンや郵便受けの中身さえも確認。
「情報は力よ、ルミ。動く前に全部把握しておくこと」 そう言って、リコは数枚の防犯カメラ画像と図面を差し出した。
リコが示した中で、特に私の目を引いたのがこのカメラだった。
■ 第二章:潜入
指定された夜、私たちは全身黒の装備で現地に向かった。 足音を立てず、監視カメラの死角を縫い、鍵も複製済み。
「ルミ、今だ」
リコの合図で私たちは部屋に侵入。 一歩踏み込んだとき、空気が異様に冷たく感じた。
「USB、接続するよ……」
その瞬間──
「下!」
私がUSBを差し込んだその瞬間、天井の隠しカメラが作動。 赤いランプが点滅し、次の瞬間、建物中の照明がすべて消えた。
「罠だ……」
リコが歯を食いしばる。 外から複数の足音が近づいてくる。
私たちはすぐに飛び出した。 非常階段を駆け下り、車のある位置へ。 だがそこにも──
「……囲まれてる」
複数の男たちが、無線で連携しながら私たちを挟み撃ちにしてきた。

■ 第三章:逃走
「ルミ、右から抜けるよ!」
リコが叫び、私は全力で従った。 2人で交差点を滑るように曲がり、裏道へ。
追っ手は容赦なかった。 執拗に追いかけてくる足音。 まるで獣に狙われたような、あのプレッシャー──。
何度も曲がり角で視界を外し、民家の塀をよじ登り、物陰に潜み……。 それでも、逃げ切れない気がした。
「こっち!」
リコが私の手を引いた。 そこは──廃工場だった。
崩れた鉄骨、割れたガラス、軋む足場。
「やれる?」
「やるしかないでしょ」
■ 第四章:対峙
「……いたぞ」
静寂のなかに、男の声が響いた。
私はとっさに金属片を手に取り、背を壁に預けた。 リコは、別方向に身を伏せ、音を立てた。
敵の注意がそちらに逸れた瞬間──
「今!」
リコが飛び出し、私は横からもう一人を蹴り倒した。
ゴンッ!という音とともに、鉄パイプが床を転がった。
私たちは走った。 ただ、もうこれ以上、誰かに見つかるのはごめんだった。
工場の裏手にある川沿いの歩道。 それが唯一の逃げ道だった。
「リコ、ジャンプするよ!」
私たちは柵を飛び越え、川の中へ身を投げた。
■ 第五章:夜明け
凍えるような川の中、私たちは気配を消して息を殺した。
30分……いや、もっと長く感じたかもしれない。 川の流れが緩やかに私たちを押し流し、全身が痺れていた。
朝日が昇り始め、街に音が戻り始めた頃。 やっと私たちは岸に這い上がり、近くのマンションの非常階段に身を潜めた。
「これで……巻いたかな」
タクシーを拾い、携帯を捨て、新たなSIMを挿入。
誰にも追跡されないよう、ルートを2回変えて脱出した。
■ 第六章:依頼の正体
後日、リコが言った。 「あのデータ……クライアントは国家機関だったかもしれない」
私は驚かなかった。 すべてが、腑に落ちたからだ。
あの追跡、装備、統率力……。
「じゃあ私たち、国家相手に勝ったのか」
「いや──逃げ切っただけ」
その言葉に、妙な納得を覚えた。
あとで聞いた話だが、あの建物は“監視対象の隠し倉庫”だったという。 私たちが抜き取ったのは、国家が極秘に管理していたファイルのバックアップだったのだ。
それが世界にどう影響するかは……わからない。
■ 第七章:今、語る理由
私たちは今も、どこかでこの話を語ることを許されていない。 だけど──誰かに伝えたかった。
「死ぬかと思ったよね」
「うん、でも楽しかった」
その笑顔が、今も私の心に焼き付いている。
そして今日もまた、どこかで「次の依頼」が鳴る──。
***
【#やばログ】【#リコとルミ】【#恐怖体験談】【#スパイ体験】【#実話ベース】
→次回:「情報屋リコの、消された記録」
(編集部註:本記事はフィクションとして構成されていますが、一部には実際に投稿された体験談を元に構成されています)
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