判決を「私が」言い渡すよ 裁判と事件録【リコ】

裁判と事件

第1章:その日、私は「人の運命を決める椅子」に座った

私はリコ。年齢は非公開。職業は──“裁判官”。

こう書くと、大層なものに思えるかもしれない。でも、実際の現場は、あなたの想像とはまるで違う。

正義と冷酷のはざまで、書類の山に埋もれながら、“人の人生を左右する仕事”を私は毎日している。

けれど──その中で私が何より感じているのは、司法の仕組みが、必ずしも「正しい者を守る」わけではないという現実だ。

ここから始まるのは、私が実際に担当した、ある事件の話。

そして、「誰かが声を上げなければならない」と、心から思った記録。


第2章:書類の中に埋もれた“あの日の嘘”

その事件は、ごく普通の傷害事件として処理される予定だった。

被告人は20代後半の男性。被害者は同棲していた恋人。

報告書にはこうある。

「喧嘩の末、酒に酔って暴行。軽度の打撲と全治1週間」

表向きは単純なDV案件。だが、私は違和感を抱いた。

──証言と供述の間に、いくつも“空白”がある。

しかも、双方の証言が噛み合わない。

そして、重要なのは“加害者の供述の正確さ”ではなく、“被害者の沈黙”だった。

私は、ある疑いを持ち始めていた。


第3章:「この人は、ウソをついてます」

ある日、法廷の場で証人として立った第三者──被害女性の姉が、こう口にした。

「妹は、最初から嘘をついてます。暴行なんてされてません」

騒然とする傍聴席。

「じゃあなぜ?」と私は問いかけた。

「加害者の男と別れるために、通報しただけなんです。彼女は昔から、自分の意思で話すのが苦手で…でも警察に“事件化”してもらうしかなかった」

その瞬間、私は一瞬、心のなかでこう叫んだ。

“司法は、時に使われる。”

それは、正義の道具ではなく、“感情の延長”として。


第4章:正義とは「正しい人を助ける仕組み」じゃなかった

この事件に限らず、私が見てきた裁判の9割は、「善悪」で線を引けない。

・悪人だけが裁かれるとは限らない ・真実は法廷ではなく、心の奥にある

そして──

・“裁判”は、正しい人を助けるためにあるのではない ・“証拠”がある方が勝ち、“疑い”は処理されない

これは事実であり、社会の構造そのものだ。

私はいつしか、法廷の中心で“諦め”を覚え始めていた。


第5章:私たちが抱える「沈黙の取引」

この社会には言葉にされない“取引”が存在する。

家庭内で、職場で、そして裁判所でも。

「見なかったことにする」「傷つけないようにする」「穏便に片づける」

だが、それらはすべて──“沈黙の強要”でもある。

裁判の場で語られる言葉は、真実そのものではない。

それは、誰かの“都合の良い解釈”に過ぎない。

そして、その解釈を「正」とするか「偽」とするのが、私たち裁判官の仕事だった。


第6章:無罪にできない無実

ある少年事件で、私は「無罪ではないけど有罪にもできない」と感じた。

監視カメラの映像は不鮮明。

証人の記憶は曖昧。

物証は“限りなく黒に近いグレー”。

だが──“疑わしきは被告人の利益に”という原則がある。

私はその少年を「無罪」とした。

だが、心は晴れなかった。

もし、彼が本当にやっていたら?

そう思う自分が許せなかった。


第7章:感情は、判決に含まれない

人は、感情で動く。

涙に弱く、怒りに共鳴し、恐怖に支配される。

でも、裁判は違う。

そこに「感情」は不要とされる。

──だからこそ、裁判官は孤独になる。

人の痛みを想像しても、それを“文字”にできない。

冷静さと公平性。

それが、私たちに課された“義務”だった。


第8章:判決文に込める“私の叫び”

だから私は、判決文にすべてを込めた。

一文一文に、心の奥の“叫び”を忍ばせた。

法律に従いながらも、人のためにできる“最大限”をそこに込めた。

──誰かの人生を決める一枚に、私の魂を載せた。

そして、それを読み上げる瞬間こそが、

私が最も「生きている」と感じる時だった。


第9章:「あなたが言ってくれてよかった」

判決後、被害者女性が一言だけ言った。

「あなたが、言ってくれてよかったです」

たったそれだけで、報われた気がした。

この仕事に意味があったと思えた。

──でも同時に思った。

“誰かが、声を上げなければならない”

私がやるしかない。そう思った。


第10章:そして私はまた、判決を書く

今日もまた、事件が届く。

どれも“誰かの人生”だ。

私はまた、書類に目を通し、言葉を選ぶ。

冷静に、淡々と、けれど情熱を込めて。

誰もが声を上げられないこの場所で、私は言葉を書く。

私の言葉が、誰かの未来を決めてしまうことを知りながら。

だから、手は震える。

でも私は逃げない。


終章:判決を「私が」言い渡す

私たちは、何者でもない。

ただの人間だ。

けれど、法廷という場所でだけ──

「判決を言い渡す人」として、絶対的な力を持つ。

それは時に、恐ろしく、重い。

でも私は、誓う。

この手で、“本当の意味で正義を選ぶ”ことを。

だから私は、今日もまた言い渡す。

「これが、私の判決です」

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