「投資って、面白いけど残酷だよね」
そう言って、ナジカはスカートの裾を整えながら、書類の束を無造作にデスクへ叩きつけた。
ナジカは29歳。元は証券会社の営業だったが、現在はフリーで「企業の闇」を暴く調査員をしている。
顔立ちは整っていて、人混みにいてもすぐ目を引く。
けれど、彼女の視線の奥には、何人もの“騙された顧客”を見てきた者だけが持つ、鋭さがある。
「詐欺って、ほとんどが“希望”を餌にしてるの。
しかも“お金の話”でなく、“人生の話”にしてくる。そこが怖いの」
ナジカがかつて関わった案件の一つは、ある自己啓発系マルチ商法だった。
「300万円を払えば、自由と経済的自立が手に入る」と謳い、30代独身女性を中心に拡大。
話を聞いた人の約40%が初回で支払いを決意するという、高い転換率を誇っていた。
だが蓋を開ければ、その実態は粗末なコンテンツと講義録の寄せ集め。
情報商材に毛が生えた程度の内容だった。
「お金の話だけなら、もっとみんな警戒するのに、
“変われるチャンスですよ”って言われたら、目が曇るの。
騙される人の共通点は、“変わりたい”気持ちが強すぎること」
ナジカは、そういった案件を日々ウォッチしている。
表向きは企業の“販売支援コンサル”として関わり、裏では顧客の被害相談をデータとして蓄積している。
「私ね、嘘を見抜くの、得意なの」
ナジカは、スマホ画面を見せてくれた。
インスタで稼げる系アカウントの投稿に、毎回“いいね”を押すボットの波。
それを見つけては記録し、特定の広告主をリストアップしているのだという。
そして彼女は、「これから流行る詐欺トレンド」を見抜く能力もある。
◆“ステルス副業詐欺”
→「スマホ一台・副業未経験歓迎」で人を集め、実は高額塾・初期費用ありのパターン
◆“偽アフィリエイト成功談”
→スクショと美女を並べ、実は完全架空の月収ストーリーを展開するタイプ
◆“フロントエンド詐欺”
→最初は1000円のセミナーで入口を作り、10万円以上の商品へ誘導
彼女の目は、常に先を見ている。
「私が暴くのは、“売れる仕組み”じゃない。“壊すための仕組み”よ」
最近では、YouTubeチャンネルも立ち上げた。
「ナジカの闇投資トーク」と題し、週に3本、音声だけで配信している。
そこには、騙された人の声、仕組みの図解、そして未来の警告が詰まっている。
最後に、ナジカはこう言った。
「詐欺に遭うって、恥ずかしいことじゃないよ。
むしろ、心のどこかが叫んでたってこと。
でも、二度目は無いようにしないといけない。
そのために、私は今日も“次の仕掛け”を潰していくんだ。」
ナジカの背後には、今日もまた一人、誰かの「後悔」が立っている。
それを背負って、彼女は前へ進む――。
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